日本橋横山町・馬喰町
エリア参画推進プログラム

2022

もっとまちが好きになる仕掛けをつくる。老舗問屋街の挑戦

熱狂的ファンまで生み出したアート・建築・デザインの複合イベント「CET(セット、セントラルイースト東京の略称)」。その舞台で新たに始まる「日本橋横山町・馬喰町エリア参画推進プログラム(通称:さんかくプログラム)」に地域はどうかかわっていくのか。CETの発起メンバーで実行委員長も務めた鳥山和茂さんを叔父に持ち、自らも人をつなぐ活動に注力する日東タオルの専務取締役 鳥山貴弘さんに、地域活性にかける思い、プログラムに期待することを聞きました。

動画でご覧になりたい方はこちら!(YouTube / 15分58秒)

まちを変えたアートイベント「CET」とは

問屋街でひときわ目立つ、日東タオルの黄色のビル

鳥山さんは仙台の大学に進学し、卒業後も仙台で働いていましたが、7年ほど前に家業である日東タオルで働き始めました。その時すでに日本橋横山町馬喰町問屋街は、問屋がどんどん廃業し、空きビルや空き家が目立つ状況に。
さらに1年ほど経ったとき、日東タオルの目の前にある地域でも名のある老舗の問屋さんが廃業すると知った鳥山さんは大きな衝撃を受けたといいます。

そんな鳥山さんの状況が変わったのは、日東タオルの関連会社の社長を務めていた叔父・鳥山和茂さんの急逝がきっかけでした。そこで地域活動に長年取り組んできた和茂さんが築いてきた人のつながりを、甥の鳥山さんが引き継ぐことになったのです。

和茂さんは、問屋街を含む日本橋から隅田川までのエリアで2003年から2010年まで毎年開催されていたアートイベントCETの発起人であり、実行委員長を務めていました。
CET開催前、すでに問屋街は周辺の大規模開発などの影響を受け、空きビルや空室が増加していました。CETは、そんなまちを「なんとか再生したい」という和茂さんら、多くの地元の方々の思いから生まれたものです。

古い空きビルや空き家、倉庫がアートや建築、デザインなど様々な分野の若手アーティストたちの表現の場として活用されました。このイベントはアートイベントの枠を超えて大きな話題を呼びました。回を重ねるごとに来場者数は増え、渋谷や六本木に拠点を構えていたアーティストやギャラリーが問屋街に移動してくるなど、まちに活気をもたらしたその功績は今でも語り継がれています。

CETのパンフレットと、CETについて書かれた書籍「東京R計画 RE-MAPPING TOKYO」

鳥山さんもまた、CETが行われていた時期に、仙台で20年以上続いている「SENDAI光のページェント」実行委員会の募金部門責任者として、ボランティアでまちづくりに参加していました。仙台市都心部のケヤキ並木に数十万に上る数のLEDを取り付けて点灯するこのイルミネーションイベントは、東北の冬の風物詩になっています。

鳥山さんはCETの熱狂を直接的に見ることはありませんでしたが、問屋街に戻り和茂さんの取り組みを知っていくうちに、「どうしたらCETのころに集まっていただいた方々のアイデアをもう一度このまちに注入して、まちを復活できるだろう」と考えるようになりました。

「私が仙台に長く住んで、仙台でボランティア活動をしていた理由も、たぶん仙台を好きになったからだと感じているんです。仙台で盛り上がっているイベントを手伝うことで、自分もまちに関わったり、まちの人たちと交流を増やしたりしたかった」と語る鳥山さんは、かつて自分が仙台を好きになったように、どうすれば問屋街を好きになる人が増えるか模索しました。

それ以来、まちを盛り上げるための取り組みに声が掛かる度に顔を出すようになったそうです。今回のプログラムについてUR都市機構から提案を受けた際も、そうした背景から二つ返事で参加を決めました。

「まちは変わらなきゃいけない」。問屋街の若手たちの思い

歴史ある商店が立ち並ぶ日本橋横山町馬喰町問屋街

鳥山さんが今回のさんかくプログラムへの応募に期待していることは、住民以外の人もまちを好きになるような仕掛けのアイデアが育つことです。

そもそも、問屋街は歴史深いエリアだけに、馴染みのない人にとって敷居が高く感じられてしまうという側面も持っています。鳥山さんは「より多くの人にまちを訪れてもらいたい」と考え、日東タオルの旧本社をビルごとホステルの運営会社に貸し出しました。

「もともと私たちがただ店舗としてやっていても外の人からするとただの“入ってはいけないタオル屋さん”という状況だったものを、誰でも入れる新しい機能としてまちに置いてみるという取り組みとしてやっています」

鳥山さん自身も、実家をリノベーションし、2017年12月、まちの新たな交流の場であるカフェとタオルのショールーム「MORALTEX・LAB(モラルテックスラボ)」をオープンさせました。

MORALTEX・LAB店内。様々な用途で使うことでできる開かれた場

「問屋商社という業者自体が減っていく中、残っているのは頑張って新しいことにチャレンジしようという会社ばかり」だと鳥山さんはいいます。そのため新しくこの地域に入って何かを始めたいという人に対しても、まちとして受け入れる体制ができています。

新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに毎月行われるようになった問屋街の若手たちによるオンライン会議でも、このプログラムのことは話題になっていました。
この会議では毎回15人ほどが参加し、「今後まちをどうやって盛り上げていくか」や「自社がコロナ禍を乗り切るためにはどうしたらいいか」といったテーマについてアイデアを出し合います。この会議にはUR都市機構の社員が参加することもあります。
鳥山さんは「こういうプログラムについて、むしろもっと早くやってほしいという声があがるくらい、まちは変わらなきゃいけないし、そのスピードを上げなきゃいけないという意識があります」とまちの若手たちの様子を教えてくれました。

さらに「もし応募する方の中で『地域に入り込むハードルが高い』と感じる方がいれば、私に声をかけていただければ、地域の関係者とお繋ぎするということもできます」と、地域の中で幅広い繋がりをもつ鳥山さんからの心強い言葉も。

鳥山さんはこれまでも人と人の橋渡し役となることが多かったといいます。

「私自身はコンサルタントをやってきた経験が長かったので、この問題ならこの人に相談すると解決するな、ということを考えるのは仕事で勉強させてもらいました。たとえば『こんな問題があるんですけど』とか『こんなことをやりたいんですけど』という相談を受けた時に『多分この人が適任なので、おつなぎします』ということをやっていたんです。

問屋街にはいろいろな分野のプロフェッショナルがたくさんいます。だから地元に帰って来てからも、ただタオル屋をやるのではなくて、みなさんをつなぐような、コミュニティづくりを支援できる仕事がしたいと思っていて。細々ながらそういう仕事をボランティアの範囲でやっていたのですが、最近そこからだんだん芽が出てきたかなと感じています」

まさにこのプログラムも鳥山さんが培ってきた地域のつながりから出たひとつの「芽」であり、これを地域の方と一緒に育てていく人材を求めています。

ボーダーやストライプをテーマに、地域の12店舗と一緒にスタンプラリーイベントを開催 イベントではMORALTEX・LABを会場に落語会も開かれた

一番大切にしたい応募者に求める条件は「やさしい人」

今回の公募には、事業者の業態を問わず、アイデアがあれば誰でも応募することができます。応募条件に関して鳥山さんから出たキーワードは「やさしい人」でした。

「アーティストやクリエイター、たとえば花屋さんに来てほしいとか、そういう業態にはこだわりません。それよりも、このまちに来てほしいと思うのは“やさしい人”。

このエリアにはご高齢の経営者の方も多いです。後継のことなど、いろいろな課題や制約のある中でも、どうにかしたいと頑張っている会社さんがたくさんあります。そういう会社さんに対して『こうした方がいいですよ、なんでやらないんですか』という提案の仕方だと、まちの人たちがついていけず、乖離していっちゃう。
だから、思いやりを持てる方に来てもらえたらと思います。『僕らのこのアイデア、みなさんにとってはどう見えますか?』というふうに、寄り添える方に来ていただければ、それがどういう業態であれ、どんな業種であれ、私たちは歓迎します。

この場所のいいところは日本橋というブランドがあることと、めちゃくちゃ交通のアクセスが良いということ。羽田空港、成田空港、東京駅まで全部電車1本、バス1本、東京駅までならタクシーならワンメーターで行ける。これを生かさない手はないと思っています。さらに問屋街の何百年という歴史も活かせる方々にぜひ来てほしいです」

公募の対象物件について

対象となる物件は元々革製品を販売していた会社が使っていた7階建てのビルです。約5年前、会社が廃業することになり鳥山さんに声が掛かりました。購入後は靴屋さんに貸して運営していましたが、コロナの影響もあり昨年撤退し、それ以来空きビルになっています。

エレベーターが古いため、もし部品が壊れた場合はエレベーターごと買い換える必要があります。保守点検はしているため当面は使えるものの、使えなくなってしまう可能性があるために主に1階から3階など一部のみの利用を想定し、安価で貸し出しています。
もちろん、7階まで使うこともできます。その他、諸条件については、今後ウェブサイト内に資料を追加していく予定です。

今後東京でも注目エリアになることが予想されるこのエリアで、あなたのアイデアの実現に挑戦してみませんか。まずはエントリーをお待ちしています。

<エントリーから選考の流れ>
①ウェブフォームからエントリー
※エントリーの段階では審査はありません。お気軽にお申し込みください!
②本プログラムの説明会イベントに参加or動画を視聴
③一次審査(書類審査)の提出物に関する説明会を受講or動画を視聴
④一次審査(書類審査)
➄二次審査(面談)
⑥実証実験・メンタリング
⑦最終選考(プレゼン)

▼プログラムの詳細・スケジュールはこちら
「日本橋横山町・馬喰町エリア参画推進プログラム」ウェブサイト
https://hello-renovation.jp/nihonbashi

 

▼鳥山貴弘さん・日東タオルの情報はこちら
鳥山 貴弘さんFacebookページ
https://www.facebook.com/takahiro.toriyama.5

鳥山 貴弘さんnoteページ
https://note.com/takahiro_towel

日東タオル
https://www.towel.co.jp

モラルテックス
https://moraltex.tokyo

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